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Day05
01

朝起きて、ルームメイトのオージーが「もう結果が上がってるよ。見たかい?今となりのシアトルチームがノートPCを見てるよ」と。
寝起きで頭がボーっとしてるまま、見せてもらうと、敗者復活に残った10名のリストの一番下にyanakenの名前があった。
「ウォー、危ね~!残ったーーー!!!」
辛うじて決勝進出者40名の最後の一人枠に、何とか滑り込むことができた。
正直、めちゃくちゃ嬉しかった。
ただ、「今日この後もレースか…。わー、大丈夫かなぁ…」とちょっと不安にもなってきた。

02

敗者復活10名のリスト上には他に、東京のジュリ、サンテ、ユキ、京都のタクヤさんの名前もあった。
ポートランドのメイソンなんかも入っていて、「ギリギリセーフ組」も役者が揃った感じだ。
日本人は結局8名(ユタカは二日酔いとケガ、エイスケくんは写真撮影のため出場できず)が、決勝レースに残ることができた。
それを考えると、益々「危ね~」って感じ。
一人だけ予選落ちしていたら、どうなっていたかと。
急いで日本の家族と会社にも報告。

朝食も摂らずにメールをしていたら、レースのスタート時間が近づいてきた。
ゆっくり食べてる時間もないので、荷物をまとめて外へ。
ちょうどホテルの前に、レース本部スタッフのルークがいた。
「何か手伝うことある?」
「じゃあこの段ボール箱をスタート地点に持って行ってくれ」
「OK」
スタート地点に持って行くと、今日のレースから新たに設けられたCOGのチェックポイントができ上がっていた。

03

マツドは一人で黙々と試走しているし、ジュリは既に準備万端のようで涼しい顔してるし、タクヤさんは決勝用のマップを大きな紙に書き直しているし、何だか皆頼もしかった。

予定時間になっても始まる気配がないので、お腹も空いたし、レース中にハンガーノックになっても困るだろうから、試走から帰ってきたマツドと一緒に腹ごしらえをしに出た。

04

持ち帰れるような店がなかったので、カジュアルレストランのような店でハンバーガーやサンドイッチを頼んだ。
マツド「いやー、いよいよですね。緊張しますよー。密かに今回はシノさん越えをマジで狙ってますから。」
頼もしい奴だ。
マ「けど、世界大会の決勝だというのに、運営はこんなに緩いんですね。全然予定通り始まらないじゃないですか。こんなお店でゆっくりしてて大丈夫なんですか?」
K「大丈夫、大丈夫。メッセンジャーの大会だもん、こんなもんだよ。しかもグアテマラだし、あと1時間くらい経たないと始まらないって。それより、しっかり食べとこう。」

世界戦とは言え、メッセンジャーの大会で1~2時間押すことはざらだった。じきに頼んだポテトと飲み物が出てきた。
すると、携帯電話に着信が。エイスケくんからだ。
エ「なんかショーンが凄い怒ってて、あと3分でスタート地点に戻ってこなければ全員失格にするって言ってるから、今すぐ戻ってきて下さい」と。K「あれ? そんな感じになってんの?わかった。」
マ「どうしたんすか?」
K「まずいなぁ。ごめん、マツド。何か、もうスタートするみたいでさ、3分で戻らないヤツは全員失格だって。」
マ「え‶‶ぇぇぇぇ~~~!」
K「悪いね、あとはココやっとくから、先に戻っててよ!」
マ「りょーーーーかい! ヤバーーーーーーい!」
マツドは慌てて戻って行った。優勝を狙っている奴なのに、悪いことをしてしまったと反省。

店のおばちゃんに事情を話し、お代を払って料理は一旦置いといてもらい、レース後にまた来ると約束して自分もスタート地点へ急いだ。
自分もギリギリセーフ!
というか、全てにおいていっつもギリギリだ。
いいのか?そんなんで、自分。

05

CMWCの決勝レースのスタートは、伝統的にルマン式一斉スタートになっている。予選通過1位から順番に、2位、3位と自分の自転車を定位置に置いていく。予選通過、最後の一人に滑り込んだ自分は、当然一番最後に呼ばれた。
「最後にレーサーナンバー87、Yanaken。ここから後ろの好きなところに置いてくれ。」
ビリならではの特権か。空いている好きなところに置いて良いらしいので、遠慮なく少し離れて真ん中に置いた。
ルマン式スタートでは、レーサーは走って自転車を飛び越えて行くので、踏まれて壊れないことだけを祈った…。

そして、スタート直前になってようやく予選からのルール変更が発表された。チェックポイントの位置やコースの一方通行の向きが変わっただけで、あとは基本的に同じだった。
いよいよスタートラインに男女計50名のレーサーが並び、緊張のスタートコールを待つ。

運営本部のショーンの合図で、全員が一斉にスタートした。
一番手前に分かりやすく置いてある自転車が、自分が乗るHELMZだ。
「みんな、踏んずけないでくれよ!」
目立つように置いたおかげで、どうにか踏まれずに済んだ。

06

みんな一斉に最初のチェックポイントのラ・カレラへ飛び込む。自分は最後に到着したので、なんとピックアップする荷物が足りなくなっていた。
「ゴメン。全部渡したら、なくなっちまった。」
「えええええ~!!何でないんだよ?」
「俺だって知らねえよ!」
そんな事、あるのか?
仕方なく、マニフェストにスタンプだけ押してもらって先に行った。(これが後で問題となるのだが)

すぐにダンゴ状態もバラけた。今大会は地元のロード選手の優先枠もあったので何人かが決勝にも出ていた。だが、彼らはロードレースのように最初から凄い ペースで走っていたにもかかわらず、誰も良い成績を収められなかったので、やはりメッセンジャーレースでは、単に早さだけが決め手にはならないのだな、と 思った。

決勝レースは4段階のマニフェスト(指示書)があり、まず1枚目の10コのオーダーをこなし、終わったら次のマニフェストに進む。
1枚進むごとに足切りがあるため、全員が完走できるわけではない。
男性は40名→30名→20名→10名。女性10名→8名→6名→4名と少なくなっていく。

07

早速1枚目のマニフェストでミスを犯してしまった。本来1回しか行かなくて良かったチェックポイントに2度行ってしまった。正直、決勝レースでこのようなミスは痛い。
2枚目のマニフェストでは、走りながらプランを決めていくのではなく、受け取った時点で先に予定をしっかり決めてから走り出すことに決めた。

ゴールへ向かい、2枚目のマニフェストを受け取ると、
「あれ? 1枚目と内容が全然違うぞ?」
なんと、2枚目は決められた順番通りにチェックポイントを回り、荷物は運ばず、マニフェストにスタンプをもらうだけのタイムレースだった。つまり、しばらくの間はスプリント勝負だ。
「ここで地力の差が出ちゃうなぁ」
途中、シノやマツドに追い抜かされた時があったが、基本的なスピードが断然違った。
「日頃の積み重ねだなぁ、こういうの。悔しいが、仕方ないか。」
2枚目のマニフェストは、考えて走らなくても良かったので、かなり追い込んで走った。

あるチェックポイントでスタンプをもらう時に、もう3枚目のマニフェストを持って荷物をピックアップしている奴を見かけた。
「ヤバい! みんな早いな。いま何位くらいなんだろう?もしかして俺、ビリなんじゃないか?」

08

そして、急いでゴールに戻ると、ショーンが
「お疲れさん。もういいよ、ゆっくりで。」
「え? もう終わりってこと?」
周りをよく見ると、日本の連中もチラホラ。
「お疲れ様でした。」
「そうか、オレ足切りになっちゃったのね。」
残念。ま、そんなに甘くないか…。
日本人で3枚目のマニフェストに進めたのは、シノ、マツド、ジュリ、ユキちゃんの4人だけ。
みんな、頑張ってほしい。

09

しばらくゴールで待っていると、どうやら最後のマニフェストに進むという奴が現れた。
シアトルのクレイグだ!
「えっ、あいつ、そんなに早かったの!? 本当か??」
正直、驚いた。泊まってるバンガローが隣で、予選の日はお互い風邪がひどくて彼がくれた薬をもらったり色んな話をして、大人しくて気のいい奴だったから、いま先頭を走ってるのが信じられなかった。
「街の売店で買ったこの味付きの水ボトルを買っちゃ絶対ダメだぞ。すげー腹壊すからな。もう3日も下しててつらい。」って言ってたが、アイツお腹は大丈夫なのか?
速いヤツは体調に関係なく速いものなんだよな…。

しばらくすると、シノが現れた。目下2位だ。
「1分差で2位だぞ!いける、いける!!」
応援にも熱が入る。
ところが、最後のマニフェストを渡そうか、というところでショーンが
「ちょっと待て!1つスタンプが足りないぞ。クリプトナイトに行ってないだろ?」
シノが「あっ!」って顔をしてる。
なんと、シノには珍しくチェックポイントを1か所行き忘れたらしい。
このミスは痛い。
「まだ行けるぞ、頑張れー!」
シノがまたコース上に戻って行く。

しばらくすると、今度はNYCの雄、オースティンホースが現れた。さすがだ。
この辺のトップ選手はホントに崩れないな。伊達にレッドブルのヘルメットを被ってない。
「2位だぞ!GOGOGOGO!!」
そしてまたしばらくすると、なんと、またシノがやって来た。これにはホントに驚いた。
「まだ3位!オースティンが少し前に行ったけど、抜ける距離だぞ!」
「…すごいな」と思った。ミスして1周まわって来たのに、まだ1人にしか抜かれてない。どんだけ早いんだ?

1人、また1人と戻ってきては4枚目のマニフェストを受け取ってスタートしていく。
9人が4枚目に入り、通過できるのはあと1人となって、マツドかジュリに期待がかかる。
「どっちか来ーい!!」

10

最終コーナーに現れたのは、オーストラリア、メルボルンのお調子者、レインだ。
「あいつ、速くなったなぁ。今回は相棒のサファより速いじゃんか。」

レインがラスト1人の枠をゲットして、コース上に消えて行った。
その約20秒後、マツドが現れた。
「あーっ!!惜しいー! 11位だ。」
足切りを告げられると、さすがに悔しそうだった。優勝を狙っていたからね。
きっと走力だったら誰にも負けないだろうが、マツドもきっとどこかで小さなミスを犯したんだろう。メッセンジャーのレースでは、ちょっとしたミスの積み重 ねが大きな差になって出てくる。自転車の乗り降りも、バッグの開け閉めも、荷物の出し入れ、加速や減速、給水の仕方、そういった一つ一つのちょっとした差 が結果に繋がっていくのだ。

11

さらに、もっと驚いたのはその後だ。
マツドのゴールを撮影していたら、なんと1位のクレイグが最後のマニフェストを全て終えて戻ってきた!

これには正直、ビックリを通り越して、何かの間違いではと思ったほどだ。
こんなに早いの?どこでそれだけの差が出るんだ?凄いなクレイグ。
周りもすごく騒いでいた。
どうやら、世界大会第18回目にして初めて北米(カナダ・アメリカ)から世界チャンピオンが誕生したらしい。
K「え? そうだったの?」
ショーン「07年のダブリンの時は、1・2・3位が全員失格になって、4位のヤツが繰り上げチャンピオンになったけど、本当の意味での優勝は今回が初めてだ。」
すごいな~、クレイグ。

2位はオースティン。そして3位はシノだった。あのクリプトナイトのミスが悔やまれる。シノ曰く、途中まではずっとクレイグと一緒のペースで進んでいたらしいが、川沿いのダートコース(砂)で差がついてしまった、とのこと。

12

クレイグの自転車を見たら、普通のロードバイクのセッティングに700C×28mmくらいのブロックタイヤを履いていた。
シクロクロスを選んだ選手も多かったが、今回のコースには一番合っていたかもしれない。
毎年入賞を果たしているチューリッヒのポルノ・スティーブは今回26インチのMTBをチョイスしていたが、スピードに難があり、結局4枚目のマニフェストには進めなかったようだ。

13

ジュリもゴールに戻ってきた。途中、足がつってしまい彼も4枚目には進めなかった。
去年の東京大会で優勝しただけに、プレッシャーは相当なものがあっただろう。
どうしても、日本人で速いメッセンジャーと言えば「シノ」っていうイメージが海外でも定着しているから、去年の優勝がフロックと言われないためにも、ここで勝って実力を示したかったはずだ。そのプレッシャーも相当なものだっただろう。残念だったけど、お疲れ様でした!

しばらくすると、ユキちゃんがゴールに戻ってきた。
女子は最後のマニフェストに進める枠が4人だったが、ちょうど4人目が行ってしまった直後だったので、ギリギリ足切りの5位、という結果になった。
上位一ケタに入れたのは立派なことだと思ったけど、本人はもっと上を目指していたようで、ゴール後もかなり悔しんでいた。これからもずっと走り続けていれば、きっともっと速くなるでしょう。
今後が楽しみだ。

14

これで日本人は全員ゴールしたので、僕はマツドと二人で、スタート前にドタキャンしてしまったお店にまた戻った。
おばちゃんに挨拶すると、
「ちゃんとあるわよ~」と、さっき作ったハンバーガーとサンドイッチが作り置きしてあった。
日本だと、改めて新しく作り直してくれる方が多いと思うが、作ったものをそのままキープしといてくれた。
「そりゃそうか。そっちがノーマルだ。」
それをレンジで温め直してくれたんだが、パンも肉もサラダも、シナシナ~になってしまっていた。ま、仕方ないけどね。

シナシナバーガーを食べながら、マツドが
マ「今回、シノさん越えを狙ってたんですが、やっぱりその壁は厚かったです。シノさんが3位で、僕は4枚目にも進めなくて11位。悔しいですけど、それが結果です。なんか、越え甲斐がありますねー!」
K「まだキャリア3年目くらいでしょう?しかも初の世界大会だし。初めてにしちゃ上出来だと思うよ。これからも頑張んな。」

15

ゴールに戻ると、最終走者もゴールしたようで、大会本部の片付けをしていた。
僕はレースディレクターのショーンに自分の順位を聞いた。
K「87番なんだけど…。」
シ「えーと、、、25位だね。おめでとう。」

「おぉぉぉー!25位か、オレ。すごいじゃない!2000年のフィラデルフィアの世界戦では決勝で49位だったから、順位が上がったぞ。『世界で25番』と言っていいんだよね?おー、これは嬉しいなぁ。」
予選通過がビリだったので、順位が上がったのも嬉しい。
日常の仕事ではデスクワークも多く、世界戦でトップを狙えるような走り込んだ日々は送れてないけど、今までの経験をフルに生かして、作戦勝ちでここまで残れたのかな。とにかく、25位には大満足だ。